今まで染色補正(しみ抜き)という仕事は“陰の仕事”また“縁の下の力持ち”などと言われ、
表に出ることはほとんどありませんでした。また、作品という“かたち”になる物がありません。
“なくすこと”“見えなくすること”が作品であり、その達人が“名人”と言われてきました。
染色補正の仕事は、高度な技術と知識をもとに、着物はもとより、衣料、はては小物に至るまで、
また、新しいものから、古いお品物までの、補正、お手入れをサポートする大切な仕事です。
それゆえ、衣料における「総合病院」であり、「医者」であると自負しております。
染色補正の店には、
お客様がお召しになられたお着物の汚れ•食べこぼし・シミ等を落とすことを主とするお店、
地直しといった、染料シミ・染ムラ・黄変・色焼け等を主にお直しする店、
また、当店のように広範囲な仕事を請け負う店などさまざまです。
多くの店の中、どこの店を選ばれるかはお客様次第であり、合縁奇縁と言えます。
ただ、「地直し」のように染料を使って直していくということは、
薬に頼ることではなく、職人の技量が大きく係わってきます。
それ程、地直しという技術は難しい仕事であり、業界内において
地直しのうまい店はレベルが高い店と言われています。
また、近頃はいろんな業種で“こだわり”を訴える店が増えています。
一口にこだわりと言っても、人、技術によってそれぞれ違います。
当店のこだわりには、大きく二つあります。
一つは、生地にやさしく、素材の特性を損なわぬよう仕事をすること。
このことは、商品を長持ちさせる最大のポイントなのです。そのためには、高級溶剤を使用し、
強い薬の使用をなるべく避け、洗い、ゆすぎに手を抜かず、時間と手間を惜しまないこと。
この“こだわり部分”は、お客様には見えない部分ですが、染色補正に於いて本来一番大切なことであり、
ここをなおざりにすると数年先に変色、腐敗(生地破れ)などの原因になってしまいます。
こだわりのもう一つは、他店で断るような仕事を出来る限りお受けすること。
こういった仕事は、大変難しい物が多く、生地破れなど、リスクを伴う仕事が多く含まれます。
また、絶対に直るといった保証もなく、手間が掛かるのが現状です。
しかし、そういった品物ほど、お客様の想い入れは大きいものです。
だからこそ、何とかして 期待に応えたいと思っているのです。
大切なものだからこそ、お客様にも“こだわって”頂きたい。
こだわりは自分への挑戦です。口にするのは簡単ですが、続けることは大変なことです。
「こんなに綺麗になって、ありがとう」その一言を聞きたくて、日々戦っております。
“挑戦”こそが進歩。 “生涯職人” 「これでいい」と思った時、職人は終わります。
しみ抜きは「有」から「無」へ 技術は「無名」から「有名」へ
私は、職人の意地とプライドを賭け、こだわりぬいていこうと思っています。
そうすることが染色補正という仕事を、皆様にご理解して頂ける近道であり、
職人としての誇りだと考えております。